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「n=1のビッグデータ」が変えるまちづくり (2024/11/6開催 DTUMセミナーレポート② パネルディスカッション)
2025.02.03
「n=1のビッグデータ」が変えるまちづくり (2024/11/6開催 DTUMセミナーレポート② パネルディスカッション)

11月6日(水)、東京大学モビリティ・イノベーション連携研究機構 (UTmobI) に設置された社会連携研究部門、データインフォームド都市・交通学(DTUM)が主催するセミナー「データを活用した未来のまちづくりに向けて~デザイン思考・人間中心設計の可能性~」が開催された。 
登壇者は東大 生産技術研究所の本間健太郎准教授と、人間中心設計と社会基盤の研究者、株式会社ソーシャル・デザイナーズ・ベース取締役COOの山田菊子氏。
本間准教授は定量データ分析を生かした建築設計の多様な事例、山田氏はユーザーインタビューによる定性データを重視する「インフラ×人間中心設計」という対照的な切り口で講演した。「データ活用」と「未来のまちづくり」を探ったセミナーの模様をお伝えする。

定性・定量 曖昧になるデータの境目

講演後、登壇者2人によるパネルディスカッションが行われた。ファシリテーターはモビリティ・まちづくりのコンサルティングを行う株式会社AMANE取締役の齊藤せつな氏。

――お二人の講演を伺ってデータの概念の広がりを感じました。お互いの講演を聞かれてのご感想はいかがですか。

本間准教授「『インタビューは定性調査で、得られる成果は定性データ』という一般論がありますが、大量のインタビューをAIで分析するとこれは定量データとも捉えられ、2種のデータの境目が曖昧になってきているのが面白いと思いました」
山田氏「本間先生の研究成果は『見せる』スライドになっており、これは素晴らしくまた迫力があるなと感じました」

――本間先生は研究成果の見せ方を探求されているのでしょうか?

本間准教授「探求しているわけではないのですが、建築分野の人間として見せ方の教育を受けてきました。結局見せないと伝わらないので、最終的に見せるビジュアルから逆算して分析方法を考える、という側面があることは確かです」
山田氏「何のために見せる、分析するのかという観点からは、定性データと定量データに差はないと思います。目的が大事なのであって、データの種類はそれほど大事ではないのかもしれません」
本間准教授「ツイッターの分析で使ったデータは、投稿した時刻と、その時の緯度と経度だけです。つまり1つの投稿につき3つの数値しか使っていません。このように一人一人のデータ量は非常に少ないのですが、数がたくさんあるのでビッグデータと呼ばれています。一方でインタビューの方が、個々の情報ははるかに深く、ある意味ではビッグなデータです。このようなデータを分析する技術が整っていけば、それを使った分析やアクションがすごく発展するのではないかと思っています」
山田氏「nがビッグ(サンプル数が多い)なのか、n=1のデータ量がビッグ(サンプル数が少なくても1サンプルに紐づいたデータが多い)なのか。nが大きいだけがビッグデータではなく、ある意味『n=1でもビッグデータです』といえる場合もありますね」

「見せる」本間准教授の研究事例の数々
[本間准教授講演資料]

個人に合わせたデザイン データで簡単に

―― 一人一人により着目できる手段が登場しています。研究の中で新しい手段による発見はありますか?

本間准教授「今まではいろいろな制約から多くの人々の平均値に基づいて計画を決めていました。それが今や、データ分析技術や製造技術などのテクノロジーの発展によって、より一人一人のための計画、デザイン、アクションを実現できる時代になってきました」
本間准教授「例えば、これまで画一的に大量生産されていた服や椅子といったものが、個人のニーズや特性に合わせてパーソナライズできるようになるなど、n=1の豊富なデータを使ったデザインがあってしかるべきです」

「n=1」のビッグデータも効率よく分析できる技術が登場し、可能性が広がる
[山田氏講演資料]

――「n=1」に深くインタビューするとは。

山田氏「土木学会の活動で外国出身の技術者10人くらいにインタビューをしました。私たちは、会議も資料も英語化すればいいと思っていたら、実は彼らは英語化することを望んでいるわけではなかった。彼らが苦しんでいるのは『日本で学位をとっているのに会社が求めるのは学位よりも日本語能力』というギャップであることが浮かび上がってきました。当事者の声を聞かないと本質は分からないなと毎回気づかされます」
本間准教授「インタビューでは『何がほしいですか?』と直接聞いてはいけないとおっしゃっていたのがすごく面白いなと思いまして。直接聞いたら本当の声は出てこないということでしょうか」
山田氏「それもありますが、調査バイアスの問題もあります。インタビュイー(インタビューを受ける人)が『調査者はこう答えてほしいのでは』と考えて答えてしまうことです。さらにインタビュイー本人も自身の価値観を正確に把握していないことが多く、本質的ではない解決策を答えてしまう場合もあります。『何がほしいですか?』は禁句で、発言の背景にある価値観を分析するというのはインタビューの鉄則です」

「何がほしい」ではなく、価値観を探るのがインタビュー
[安藤昌也︓UXデザインの教科書,丸善出版,2016.05. をもとに一部改変して山田氏作成]

プライバシー保護とデータ活用のジレンマは続く

――データ取得で大変なことや心がけていることは何ですか?

本間准教授「ツイッターからはかつて、ユーザーの詳細な位置情報を得られましたが、10年ほど前に運営方針が変わってしまい、そうしたデータを取得できなくなりました。確かに、詳細な位置情報を使うと、私たちのような第三者がユーザーの居住地を推定できるわけで、プライバシー保護の観点から、これが問題視されたのかもしれません。ただ、プライバシー保護はデータ独占にもつながります。全てのデータが非公開になると、最終的にはユーザーが得られる便益も低下するでしょう」
本間准教授「学生が『こんな分析のためにこんなデータを使いたい』と研究計画を立てても、必要なデータにアクセスできないことが多くあります。むしろ、『手に入るデータを使うとこういう分析ができそう』という発想で計画を立てると上手くいくことが多いですね。それはそれでクリエイティブなアプローチですが、データの制約から仕方なく、手段から目的を逆算しているわけです。もっと自由にデータが入手できると、手段が増えて、それを使った研究やサービスがどんどん広がるとは思います」
山田氏「データの扱いは難しく厳しくなっています。例えば、インタビューで『50代の女性土木技術者』というと、そのような人は数十人程度しかいない世界なので、匿名化したとしても『●●会社のあの人』と分かってしまいます。気を遣うのと同時にデータは社会の宝だと思うので、上手に匿名化しながら活用することが重要です」

プライバシー保護の観点から、この精度の分析が現在は不可能

――「データ活用のまちづくり」をする上で、プライバシー保護も考慮に入れたデータ取得を念頭においた全体設計が必須になるのでしょうか?

山田氏「データを取得する人がきちんとデータを管理し、最初に立てた目標のためだけに使うということが求められていますよね」
本間准教授「絶対に自分のデータは見られたくないという人がいる一方で、ノーガードの人もいます。先ほど触れたツイッターの位置データは、当時、自分のいる場所を世界に向かって公開します、という設定に同意した投稿者のものです。特殊なユーザー層と言えますが、位置情報の傾向が一般的な人たちと似ていたので、分析に使っています。このようなユーザーのデータを使うことがあり得ます。また、位置情報を公開することで現在地に応じたリコメンドを受けられるアプリのように、データの公開によって追加サービスを受けられる仕組みは、本人の同意を得ながらデータを収集する方法として現実的かと思います」

――データを使って世の中を変えた事例があれば、ユーザーは自身のデータを共有しやすくなると思います。データ活用のまちづくりに関する良い事例をご存じですか?

山田氏「行政の事例ではデンマークの事例が知られています。デンマークの電子政府設計の際は、インタビューも含めてユーザー調査を行い、最終的に人口500万人を6人のペルソナ(ターゲットユーザーの具体例)で表現しました。結果、電子政府がユーザーにとってぐっと使いやすくなったと言われています」
本間准教授「建築の事例ですと、例えば建物にいろいろなセンサーをつけて、人の動きや室内環境のデータを集めて分析し、入退室の管理や照明、空調と連動させる「スマートビル」というものがあります。このように運用の効率化のためにデータを使う事例が見られるようになってきており、今後はそれが設計にも結び付いてくると思います。例えば今までなら5台必要だったエレベーターが、運用の効率化によって4台で十分になることが設計段階で分かれば、面積効率が非常に上がってきます」

――その場にいる人の雰囲気を認識して光で演出する構想もあるといったお話を伺ったのですが…。

本間准教授「少し未来の話ですが、部屋に設置された『察しがいい機械』が、顔の映像から年齢、表情、視線といったものを自動で判断して、現状のAIの技術と連結されると、何が起こるでしょうか」
本間准教授「例えばこうやって壇上で話をしていると、カメラとつながったコンピュータが『今つまんないと感じている人が結構いるよ』と私に教えてくれたり、面白くなるように光や音で空間を演出したり、『察しよく』振る舞ってくれる世界が可能なはずです。このような、場のデータをリアルタイムに使う建築のイノベーションはあるかなと思います」
山田氏「面白くないよってフィードバックがあったらつらいですね…。面白いよって言われたら『よし、がんばろう!』って思うけど、つまんないよって言われた瞬間に『いや、もうなす術がありません』みたいな感じで…(苦笑)」
本間准教授「そこは山田さんに面白くないって言うとどうなるかをコンピュータは分かってくれているので、もっと『察しがいい』フィードバックをしてくれると思いますよ(笑)」

他分野横断が開く可能性

――山田さんの土木設計の世界でも、例えば道路や鉄道で、状況やコンテクストに応じてインフラを変える可能性があるのでしょうか?

山田氏「少し古い話になりますが、英国のスタートアップが道路の白線や横断歩道を機動的に変えて交通量を制御したり歩行者の安全を守ったりするといった取り組みがありました」
山田氏「そのような事例を耳にする中で必要だと感じるのは、土木の人が他の領域の勉強をしたり、他分野の人と一緒に仕事をしたりすることです。土木の教育では、三力(さんりき; 構造力学・土質力学・流体力学(水理学))が100年変わらずに行われていますが、そうした土木の世界のみに固まっていたらいけないと思います」

――分野横断も今回のテーマだと思います。分野の違う方が、同じ目標に向かってデータを分析して活用していくようになるのでしょうか?

山田氏「データに興味があって、よりよい明日に向かって仕事をするという点だけ共有していれば、目標は違っていても良いと思います。本間先生と私の目標はきっと違うと思いますが、一緒に仕事をしたいですねということを二人でさっきから何度も話し合っています」

――最後に、これから挑戦したいことや、データ活用のまちづくりでできるとお考えのことをお伺いします。

本間准教授「真っ白でシンプルな部屋にテクノロジーが組み込まれて、その時々のニーズに応じてその部屋が早変わりする、というのは将来のひとつの夢ではあります。ですが建築の人間としては、建物自体の個性がどんどんなくなっていくようで、面白くないなとも感じます。なので、リアルタイムデータを使ってその時々のニーズを反映できる建築としながらも、場所のコンテクストについてのデータも使って個性あふれる建築にもできるといいなと思います」
山田氏「インフラと人間中心設計を言い出して7、8年が経ちますが、今日みなさんとお話しして、まだ先があると感じました。特に本間先生のたくさんの事例を見て、私も『事例カタログいっぱいあります』と言えるようあと10年ぐらい頑張ろうとおもいます」

――本日は本当にありがとうございました。

パネルディスカッションの動画は下記を御覧ください。

パネルディスカッション
データを活用した未来のまちづくりに向けて~デザイン思考・人間中心設計の可能性~
(本間准教授、山田様、ファシリテーター:AMANE齊藤様)